小林信彦「黒澤明という時代」

小林信彦さんの「黒澤明という時代」を読みました。

僕は、小林さんの映画評をとても信頼しております。
週刊文春も、とりあえず小林さんのコラムのページは毎週読んでいます。
小林さんが「姿三四郎」以来の黒澤明ファンであることは知っていましたが、
(ご本人は「ファンなどというものではない」とおっしゃるかもしれませんが)
この本は、その小林さんが黒澤監督の全作品を1つずつ論評しながら、
黒澤明という人物と彼が生きた時代を描き出し、
さらには小林さん自身の当時の暮らしぶりまで読者にかいま見せる、という
きわめて贅沢でアクロバティックな試みに見事に成功しています。

映画の本として感心するのは、
30本に及ぶ黒澤監督の全映画のストーリーが過不足なく紹介され、
その上で映画のポイントになる部分についての批評が
きちんとなされている点です。
トータルで270頁の本でこれを成し遂げるのはなかなか難しいと思います。
中でも「生きる」の構造を4つに分けて細かく説明する章は実に見事で、
”この映画のもっとも美しい場面”の描写は、
映画を思い出して泣けてくるほどです。
また、デビュー作から同時代にリアルタイムで見続けている”強み”は
すさまじいものがあります。
最終章を読んで「なるほど」と思うのですが、
「姿三四郎」を手放しで絶賛する書きぶりと、
「羅生門」以降の映画についての何というか「ちょっと困った」感じとの
微妙な違いが面白いんですよね。
「映画は封切られた時に観なければ駄目なのだ」という宣言には、
おっしゃるとおり、と言うしかありません。

読んでいるはしから黒澤明監督のすべての映画を今すぐ観たくなります。
そういう意味でも、実にすぐれた「映画の本」だと思います。


黒澤明という時代
文藝春秋
小林 信彦

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